W杯予選日本代表vsオマーン戦

兎に角監督を批判するというのが日本のスポーツの流れなのか、勝った時もザッケローニ監督への批判があるようだ。まず結果は2-1で日本の勝利で、1-1になってからの2点目は交代した酒井ゴートクが抜け出て、直前の細貝INでポジションチェンジしていた遠藤が流して岡崎のゴール。しかも追いつかれてシステムを変えた直後の得点と、結果的には采配が見事に的中しているとしか言いようがないと思う。それ以前に理論上の上でも、私は今回のオマーン戦など見てて、出されてみてそんなカードがあったかと交代直後になるほどと思わず思ったような物だったが、それでも監督にケチをつけている人もいる。その主張は大体こんな感じだ

 ・何故FWの前田を変えてDFのゴートクを入れたのか
 ・何故追いつかれて攻撃的に出なければいけないときに細貝だったのか

この類の疑問が多くあるようだった。

■何故ゴートクだったのか
既に前例があった長友
 個人的には交代のポイントは長友だったと思う。少し前にユーベvsインテルの試合を見てたので長友を上げるという選択肢がかなり攻撃的な選択肢だと理解できたし、日本は攻撃のオプションがほとんどない中で如何に攻撃力をあげるかが課題なわけでそこをを埋めるオプションとしては、変えた直後にその手があったねって言う感じはした。ユーべvsインテルでは現在セリアAを就任早々驀進しているマッチョ采配で後半長友を前にだしMFにしてずばり的中で長友アシストから3点目で勝利という試合だった。イタリア人のザックがセリア屈指のカードのダービーの上位争いでもあるその試合を見ていないわけがない。しかもインテルより日本代表が有利なのは控えのSBである酒井も十分攻撃的でありDFをフレッシュにして守備力を上げつつさらに、控えのSBの攻撃力が高いので攻撃力アップが期待できる点だ。長友の守備の不安を消しつつ攻撃に専念させ、さらに酒井の突破もスタミナ的に期待できる1枚のカードで一石二鳥の交代だった。日本人のステレヲタイプのサッカーファンはイタリア人だから守備的采配と勘違いしてるようだが、むしろ最近のイタリアサッカーを見てればそうは見えなかったと思う。

現実的な選択肢から考えた場合
 そもそも最大限攻撃的にすると考えても今回の日本代表が考えられるオプションは少ない。いたら確かに良かったけど香川は怪我、突破できていなかった右SBの上がりやクロスに期待できる内田も駒野も怪我。いたのは宇佐美か中村剣豪、ハーフナーマイク、乾とかになるわけで、すると交代候補は若干疲れてた本田か得点した清武。清武はこの試合ではミスもあったがシュート回数が多く得点もしている。かといって疲れたといっても本田を抜いたら前線のキープ力がなくなるため攻撃自体が成立しにくくなる。それは本田の怪我でトップ下中村や宇佐美のシステムを試した時に既に判明していた。FWを変えるといっても、そもそもFWは能力が拮抗しており変えても攻撃力がアップするのか結構疑わしい。それぞれのFWの特色が有利に働く局面でしかカードとして機能しないと思う。どの選択もオマーン相手に当たるのかわかり難く賭けになる部分が大きすぎて博打のような采配になる。そこでポストプレーもできるFW本田にして、ポストプレーの選択肢を残しつつ岡崎も残すというチョイスだったと思う。流動的に動き場面でゼロトップにもなるが、今の代表で一番素晴らしいポストプレーを期待できるFW前田を変えてもポストプレーを期待できるなら本田しかない。これなら確かに形は変わらないのでやる事は今までと同じにできる。全体により攻撃的な配分をしつつチーム全体のプレーに急激な変化を必要としない堅実なアグレッシブさになる。

お互いのシステムと選手で考えた場合
 別の観点からみても日本の長所である優れたパサーを生かすためには、中村や宇佐美のようなMFからの出所をさらに増やすのではなく、裏に走る人数やターゲットを増やす必要がある。裏に出た中でも唯一崩せていたのはサイドの長友。右は厳しい状態だ。長友サイドはオマーンも選手が怪我でサブの選手しかいなく明らかに穴になっている。その左サイドに交代で攻撃参加の頻度増加だったと思う。そこでMF長友という選択で、カードを切ってみればなるほどねという展開。

■何故細貝だったのか
 細貝の交代についてはブラジル戦の教訓があるなと。前回のブラジル戦で得られた教訓は遠藤長谷部はトップレベルだとカウンターを押さえれずに狙われやすく、SBの上がった所で出所を狙われると開いた裏を取られてしまっている。中央を突破できていない時も攻撃的で優秀な両SBの攻撃参加で抜けるのが今の日本は強みなので、そこの裏を狙われると効果のある攻撃ができず厳しい。カタールも日本のサイドの裏をカウンターという部分で、攻撃時に物理的に守備人数が経減るという所を狙っている。また日本の右サイドでは清武酒井コンビは封じ込まれており使えない状態になってしまい攻撃参加のリスクだけ上がってしまっているし、清武は仕方がなく中へ切れ込む展開になっていた。すると機能するのは実質左だけ。本田岡崎に長友を絡めて出し所を増やし遠藤今野あたりがボールを出す攻撃になる。そこの長友の裏を担保するための酒井交代であり酒井も上がった時の裏のカバーへ細貝だったように思う。弱点に畳み掛けてカードを使っている。それは「中盤にエネルギーのある選手を置きたかった」という試合後の話*1や。細貝に「真ん中に残れ」と指示している*2点も整合性がある。ザックは常にバランスを重視している。細貝が守備のカバーに回りあがらないのだから、酒井が上がる*3のである。そして実際に細貝から酒井のパスで裏に抜け出て、遠藤が絡んで岡崎のゴールである。細貝が入った事で遠藤が前に出ており一発の違いも狙える。では何故細貝の交代の時に遠藤ではなく清武交代だったかだが、私が見てた限り清武は得点もしたしシュートもしてたが右サイドの酒井との連動や動き自体は封じ込まれていた。仕方がなく中へ切れ込むか早いクロスになっていた。確かにクロスボールは精度が高いんだけど遠藤のボール配分や違いを作れるという面があるし、遠藤はベテランなので最後のメンタル的な部分にも期待できるからではないかと思う。
 しかも守備の観点からも遠藤のボールが狙われる動きも分散できて守備のリスクも減らせている。これはオマーンの選手の立場になってみると分かりやすい。細貝を入れた頃にはオマーンは初期のプランから考えると実に複雑だ。本来は本田遠藤長谷部の三人を抑えるプランが、そこに細貝今野が入ってきて絞るのが難しくなっている。遠藤はポジション自体がずれて前にでているし、本田は前に出てしまって抑えるべき相手なのかそうでないのか良く分からない位置にいるし、そこに本来抑えるべきボランチに細貝や長谷部がいて、最後の方には今野までその位置に出てくる。裏を狙うはずのSBは長友と酒井で二人になっている。しかもおそらく中東の人には区別がつきにくい東アジア人がポジションチェンジをしてくるわけでかなり混乱したんじゃないだろうか。

 結局今のザック采配に反対な人はサッカーの上限を理解していないと思う。上限というのは攻撃でも守備でも限界があり、攻撃的にしてもFW増やすだけでは攻撃の上限は上がらないという点。入れたカードが前より個の力で上回るかシステム的に相手より優位でなければ、単にFWを入れても攻撃的に見えても実際は攻撃力は上がらない。中村を入れるべきだとか宇佐美を入れるべきだとか乾という話も見かけたが、それは博打であって手がないから当たるか分からないけどスタミナがフレッシュな分だけましという消極的な選択で、考えを組み立てる根拠が疲れてないという所にしかない。例えば、いいFWが疲れてて2番手のFWを入れるべきかという問題。2番手のFWの特色が癖が強い場合全体の攻め方が代わる。例えばハーフナーを入れたら当然ハーフナーの強みを生かして高いボールとかも考える事になる、その攻撃が相手のシステムのウィークポイントを突いているかどうかという組み合わせの問題も出てくる。それを考えずにFW登録されてるというだけでFWの選手を入れても全然攻撃力は上がらないし、考える事を放棄した博打性の高い選択といわざるを得ない。


■選手交代以外の光る采配
 特に違いを感じたのは、DFの使い方。オマーンが攻撃的にきたり高い位置でハイプレスという可能性も全くなかったわけではないが、開始してしばらくして分かったのはオマーンはある程度引いてポイントでカウンター狙いだという事。それも前回のブラジル戦で狙われてカウンターになっていた中盤の中央で、トップ下、ボランチあたりを押さえているようで日本のDFへチェイスはしていなかった。前回の日本vsブラジルを研究したのかもしれない。ザックが何か言っているというアナウンサーの指摘のあと良く見てたら、ボールをまわす位置を変えて遠藤長谷部から今野吉田あたりで回すようになったように思う。これは高い位置でプレスが来ると致命的になるDFラインでも相手が追わないので楽にボールが回せる点や、ビルドアップする位置をずらして相手のプレスの強い遠藤長谷部が長時間ボールを持つのではなくDFからのボールをワンタッチで流してサイドやホンダ、岡崎前田に当てる動きになっていたのでカウンターのリスクを減らしていたと思う。
 逆に言うとシステム的にはオマーンは本当によく日本を研究していたんじゃないだろうか。本田や遠藤長谷部あたりの出所をしっかりと押さえて、本田は個の力で何とかしていたが中央を抜くのは難しく結果的に相手のサイドからという流れになったし、得点シーンでも良く見ると相手のDFのミスが明らかにある。例えば1点目も長友の突破に完全に抜かれてしまっている。長友のクロスにもオマーンDFはポジション的には対応して足にボールを当てれている。変な方へ当ててしまっため結果的に清武の前にボールが着たが、その清武のマークも外れてる。3つも個の力の差が重なっているわけで、長友へボールがでる今野のパス以外はシステム的にはかなり押さえる形になっていたと思う。オマーンはシステム的には対策したけど個の力の差で相手はミスが続いて負ける感じに見えた。チャンスもオマーンは幾度も作っていたので攻撃守備の決定力の差で戦ったように思う。


最近は便利になったのでダイジェストがニコニコとかで見れるので、要所要所の動きを見ていくと色々な意図がダイジェストでも何度も見返すことでよく分かる。この試合の個人的にはMoMは今野だと思う。相手のヘディングをマークして決定機を抑えてた時も、ついてたDFは今野。オーバーヘッドのシュートを頭で防いでたのも今野。一点目の裏の長友へボールを出してるのも今野。

*1:http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/text/kaiken/201211150001-spnavi.html

*2:http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/text/comment/201211150002-spnavi_2.html

*3:この時点では長友はMFに配置されており元々上がるポジションであり、上がるか上がらないかが分かれるのは酒井細貝今野の3人。細貝が残るなら酒井が上がるのが順当。今野まで上がるのはアグレッシブになるだろう