トランプで感じる民主主義の本質

■利益を最大化しても支持されるわけではない

 メディアがトランプは民主主義の失敗だとか、扇動されてるとか、お祭り気分とか言ってるのは左翼的な盲目さだと思う。個人的にはオバマが当選した時よりも今回のトランプのほうが民主主義の意義がよく分かった*1。なぜならオバマが当選するのは民主主義の理想像の一つであり表に出ている魅力の一つで、当選してもある意味当然。民主主義の理想的な帰結の一つだったわけだからそれが実現したとしても何の不自然さもなかった。一方トランプの当選はもっと示唆に飛んでいる。

 トランプで表に出てきた意味は、「多数派の民衆の幸福の最大化」こそが民主主義であるという点にある。これは飛躍しているので順を追う必要があるだろう。まず前提としてヒラリーはオバマ路線を踏襲していた。つまりオバマ路線から変化しないという選択肢だった。アメリカはオバマ路線の中で停滞ムードではあったが、経済成長はしいていた。ではなぜ米国民は穏やかな成長を選択しようとしたヒラリーにNOといい、変革者であるトランプにYESといったのか。それは全体として経済成長をしていたとしても、その利益を得ていたのは上位数%の富裕層だけで、実際の労働者階級ブルーワーカーは利益を得ていなかったから。何の成長の実感もない多数派は全体の利益ではなく、自分たちの利益を求めてNOを叫んだ。ある意味エゴ。そしてそのエゴとトランプはちょうどマッチした。

 その結果いえることは「民主主義の本質は全体の利益を最大化することではない」という事。オバマヒラリーの路線で全体の利益が最大化されたとしても、民主主義の選択は「最大多数の最大幸福」だったのだ。つまり「功利主義」。そうじゃないと投票で多数派に負ける。トランプの方針は米国に必ずしも利益をもたらすものではなかった。それにもかかわらず米国民はシステムの変革を重視し利益の最大化は重視しなかった。つまり全体として利益が増えることよりも、多数派の不遇を訴えたのだ。目の前の報われない多数の声の方が人数が多いのだから投票すればその結果が出る。これは凄く民主主義的であるといっていいと思う。幻想の中の社会主義的な民主主義ではなく最大多数の幸福を求める判断が生む結果。一見不思議なように見えるトランプの大勝は、冷静に考えるとむしろ必然ですらある。


■逆に限界が見えたのは資本主義

 トランプは金持ちの不動産屋であり、如何にも資本主義の象徴のように見えるが、現実的には個人として金持ちなだけで、権力や金をもった富裕層の代表ではない。ヒラリーこそが権力を持つセレブの象徴であった。実際に選挙資金はクリントン氏が圧倒してトランプ氏の32倍もあったのだ*2。これでいえることはメディアという権力を抱き込み、ワシントンのシンクタンクという権力を代表し、個人の金ではなく資本主義の富裕層集団として金を集めたクリントン財団は富裕層の権化といっても良い。

 これだけの金と権力をかけたのだからヒラリーが勝っても何の不思議もない。しかし実際にはトランプが圧勝した。これはリーマンショックのあと米国で巻き起こった上位数%の富裕層にノーという動きむしろよく似ている。その結果その上位数%が利益を得るシステムを破壊してでも変革を望む少々停滞しても幸せなアメリカを選ぶ。まさに「保守に向かっての変革」。日本で言うと保守と革新で右翼左翼がわかれてしまっているので、話がややこしいが、全体として幸せな停滞に向かうという意味ではトランプは結果的に正当な保守主義者達の代弁者にもなりえたのではないかと思う。

 そこで、なぜ資本主義の限界が見えるのか。まず資本の投下量と選挙結果が一致しないということ。これは金や経済成長では解決できない問題として最後に民主主義が立ちはだかったといっても良い。しかし、それで金を選ばなかったのは全体の利益が見えていない民衆の間違いだというのは資本主義に立場がより過ぎている。何故かというと世界はグローバル化し、資本は世界を飛び交っている。その中には米国より経済的に可能性に満ちた地域が多数ある。将来の米国の覇権は安泰ではない。むしろほぼ確定的に中国やインドの台頭し、現状維持では資本の勝負で米国が勝てない可能性がかなりある。特に長期的なスパンで見た場合、穏やかに成長しながら勝負していては米国が負ける可能性の方がむしろ高い。
 純粋な資本主義の勝負で米国が勝てない可能性が濃厚に漂う、つまり資本主義勝負では限界が見えている。だから、共和党の候補は軍事力でISを爆撃しまくるといってみたり、グローバル化もやめて世界の警察を辞めて国内に集中して代わりにロシアインドと連携して包囲網を作るというトランプ的な世界観が支持された。まだ米国が勝てているときにブロックで封じ込めてしまえば資本主義勝負で勝てなくても米国勝利の可能性はぐっと高まる。米国の覇権が安定していた時期の世界を覆う警察、強者の戦略から、互角の勝負で勝つための戦力の集中へシフトチェンジしたわけだ。万が一があっても現状の軍事力勝負なら負けない。結果米国の選択は理想的なグローバルな資本主義ではなく、米国が覇権を維持し勝つための米国の勝てるルールの中の限定的な資本主義を選んだ。

 TPPを選ばずにロシアやインドとの連携を選ぶ時点で、その構想から日本が外れつつあるという点が日本人としては気がかり。ということを今日の朝起きて朝飯を食べながらぼんやりニュースを見てて思った。

*1:私が個人的にトランプの発言が好きだというわけではない。むしろトランプにはあまり共感はできない。しかし凄く示唆には富んでいた。

*2:http://www.jiji.com/jc/article?k=2016062100839&g=int